アクアのアンテナショップ(京都店)
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で衛生意識が高まり、「寝具を自分で手軽に洗いたい」という人が増加。コインランドリー市場に大きな変化が起きている。ふとん洗濯乾燥機を導入する店舗が増え、コインランドリー機器大手のアクア(東京・中央)とTOSEI(東京・品川)では、売り上げも伸びているという。【関連画像】左はアクアの前身である旧三洋電機が00年にリリースした敷ふとん乾燥機。右が操作性に改良を加えたアクアのコイン式敷ふとん乾燥機●新型コロナ禍下、ふとん丸洗い需要増 アクア業務用洗濯機事業本部事業戦略グループの結城武成氏によると、コインランドリーが一般に浸透し始めたのは1970年代。利用者は自宅に洗濯機がない単身者が中心で、ほかには出張先や自宅の洗濯機が壊れたときなどの応急用途で利用されていた。 変化の兆しが表れたのが95年~2015年ごろ。より高い利便性・機能性が求められるようになり、寝具などの大物洗い用洗濯機を導入する店舗が増加した。 「清潔志向の高まりから、“ふとん丸洗い”のニーズが次第に高まっていったのが16年以降。特に洗いにくいとされてきた羽毛ふとんや敷ふとんも丸洗いしたいという声が増えた」(結城氏)●羽毛ふとんや敷ふとん専用コース開発 こうした傾向を踏まえ、アクアは20年ほど前からふとんを洗えるコインランドリー用機器の開発に注力。その技術を進化させ、コインランドリーでは難しいとされる「羽毛ふとん」と「敷ふとん」それぞれの専用コースも開発した。 大型洗濯乾燥機に搭載できる「羽毛ふとん専用コース」を搭載した新機種をリリースしたのは、20年4月。ドラム式の洗濯機はたたき洗い方式が基本だが、羽毛ふとんは中に空気を含んでいるため水中で浮いてしまい、たたき洗いしにくい。この課題にアクアは、洗濯前に予洗いを行い、ふとんの中までたっぷり水を染みこませて、羽毛に重量を持たせて浮きにくくした上で、標準よりもドラムの回転数を上げることで対応した。導入店舗はコースのリリース直後から急増している。 一方の敷ふとんは、水洗いすると形崩れしやすく、中の綿が乾きにくいという問題があった。これに対し、アクアでは水で予洗いすることで敷ふとんをドラムに張りつかせ、1方向の回転と高い回転数で押し洗いのような効果が発揮できるようにした。 さらに洗った敷ふとんの「乾きにくさ」「重いがゆえの扱いづらさ」を解決するのが、敷ふとん専用の乾燥機だ。「当社の前身である三洋電機時代、98年に、敷ふとん専用乾燥機を開発・販売していた。ただ使い勝手の部分で改良の余地のある製品だったため、21年7月に使いやすさ、操作性を向上させた新モデルを発売した」(結城氏) 新モデルでは台車の高さを低く設定。具体的には想定身長163センチメートル前後の人がふとんを掛けやすいよう、台車の高さを1.06センチメートルにした。また、台車を引き出すと自動的に「ふとん押さえ」が開き、収納すると自動的に閉じる「タッチレスふとん押さえ」を採用した(特許出願中)。●TOSEIは洗うだけではない機能開発 01年に世界で初めて業務用洗濯乾燥機の開発・製造・販売し、20年度の業務用洗濯乾燥機の国内の出荷台数シェア42%(21年4月同社調べ)をうたうTOSEIもまた、ふとん洗いニーズを重視。独自開発の仕上げ法を採用した敷ふとん専用の「乾燥・リフレッシャー」を22年夏に発売する予定。 敷ふとんは汗や皮脂汚れがたまりやすく、アレルギーの原因となるダニの温床になりやすい。少しでも清潔に保つために一般家庭では敷ふとんの天日干しがよく行われているが、ダニを死滅させるには50度以上の熱を20~30分程度かける必要があり、水洗いや天日干しだけでは除去できないという。そこでTOSEIでは数年前から半年~1年に1度の敷ふとんの丸洗いを推奨。20年2月には丸洗いした敷ふとんをスピード乾燥できるコイン式ふとん乾燥機「FDG-100C」を開発。中綿がポリエステル100%、シングルサイズの敷ふとんの場合であれば20~30分で乾燥でき、綿ふとんでも約40~60分で乾燥できるというこの乾燥機の販売台数は、すでに400台を突破し好調だ。 さらに、利用者が増えるにつれて、「もっとこまめに手入れしたい」「天日干しの代わりにコインランドリーに持ち込んで、なんとかできないか」という声が多く寄せられるようになった。 そこで開発したのが、コインランドリー敷ふとん専用の乾燥・リフレッシャー「FRDG-150C」だ。従来機は丸洗いした敷ふとんを乾燥することを前提にしていたが、この乾燥・リフレッシャーは、洗わずに機械にセットし、高温スチーム除菌、脱臭・消臭剤噴霧、乾燥(復元)という手順で、最短15分で敷ふとんを“リフレッシュする”機能を搭載している。 「リフレッシュコースは特許出願中で、洗剤を使用せず、高温スチームを中綿まで浸透させる技術を使用している。高温スチームと消臭除菌剤噴霧によるダブル消臭とダブル除菌の後、高温ジェット風で一気に乾燥させるので、わずか15分で中綿までリフレッシュできる」(TOSEI 商品企画・開発本部本部長 執行役員の野村雅和氏)●コインランドリー市場、4倍の可能性 TOSEIの営業統括責任者で執行役員の塚本広二氏は、アクア同様、コインランドリーの出店数は11年以降右肩上がりで増えてきたと話す。ただし、「この数年は伸び率が緩やかになってきている」(塚本氏)。大きな要因はコインランドリーの増加により、新規出店のための好立地が減少していることと、店舗数増加により各店舗の来店客数が減少していること。 塚本氏は「家庭で洗濯しにくいふとんの丸洗いは、集客数拡大の起爆剤になり得る」と大きな期待をかける。 また「様々なアレルギーやアトピー性皮膚炎の増加から、ふとんを清潔に保ちたいというニーズは年々高まっている。現在のコインランドリーの市場規模は約1300億円と見ているが、ふとんの丸洗い文化が定着すれば、将来的に約4000億円にまで伸長する可能性を秘めていると考えている」(塚本氏)。 約1300億円という市場規模は、現在、国内にあるコインランドリー店舗数約2万5000店舗(今年度末までの見込み数)に、1店舗の平均年収規模約500万円強をかけて算出。将来の4000億円は、1人あたりのふとんの所有枚数から換算した。ベッドを使用している人もいることを踏まえ、日本人全員が1人1.6枚のふとんを所有していると想定。それに現在の日本の人口・約1億2500万人をかけると、ちょうど毎日約2億枚のふとんが使われている計算になる。 これらのふとんを、コインランドリーで年に1回は洗濯するという文化を定着させられれば、2億枚×1回分のコインランドリー料金の2000円で、年間約4000億円の市場が生まれるという計算だ。これに、もともとの1300億円を足せば、5300億円、つまり現在の4倍強の市場規模をつくれるというわけだ。●コインレス、タッチレスで顧客獲得へ 2社それぞれに特色があるが、共通しているのは「コインランドリー IoT」の強化。アクアでは利用者向けのコインランドリー総合ウェブサイト「LAUNDRICH」を、TOSEIでは「TOSEI Laundry DX」を運営。クーポン発行やポイントシステムでお得感をアピールしたり、スマホ決済でキャッシュレスでの支払いを可能にしたりと、利便性を高めることで顧客の増加を狙っている。 またTOSEIは、国内初の“タッチレスコインランドリー用洗濯乾燥機”を22年1月に3機種同時に発売。業界初の、触れずに手を近づけるだけで操作できる「タッチレスパネル」を採用するほか、「抗菌加工取手」、乾燥とオゾンエアによる業界初となる「ダブル除菌」などを採用し、新型コロナ禍下における接触不安を解消するという。●潜在需要の顕在化、習慣化で大化けも 敷ふとんも羽毛ふとんも自宅では洗いにくい。だがクリーニングに出せば戻るまでに数日~2週間はかかり、その間に別の敷ふとんが必要になる。そのため、あきらめている人が多いが「できれば丸洗いしたい」という潜在ニーズは高い。使いやすいふとん丸洗い機種が普及すれば、このようなニーズが顕在化し、使い始めれば習慣化する。ふとんの丸洗い対応はコインランドリー市場を一変させる可能性を秘めている。
桑原 恵美子
最終更新:日経クロストレンド