なぜかにおいが気になる冬(写真はイメージ)【写真:写真AC】
お正月休みも明けて通常モードに切り替わりました。まだまだ寒さは続きますが、公共交通機関の中や室内で汗のような不快なにおいが気になったことはありませんか? 汗をかいて当たり前の夏よりも、実は冬の方が「臭くなりやすい」要因があるそうです。臭気判定士の鈴木理惠さんが解説します。【画像】「秋冬の汗臭」に気付いた経験がある人は約75%に どんな状況でにおった? アンケート調査 ◇ ◇ ◇
寒い時期なのに蒸れたような嫌なにおいがする、コートやブーツを脱いだ時にモワッと不快なにおいが気になる……という経験があるかもしれません。現代の冬は汗をかきやすい環境にあるので、においが発生しやすいと言えるでしょう。 分泌されたばかりの汗には、においがありません。汗が皮膚の表面で皮脂などと混じり、それを細菌が分解することでにおい物質が発生すると言われています。酸っぱいような、腐ったようなにおいは、汗自体ではなく細菌が作用して作り出したものです。 人が不快に感じる汗のにおい成分には、一般的に乳酸や酢酸、イソ酪酸、イソ吉草酸、アンモニア、脂質などがあり、これらが皮膚の常在菌によって強い酸臭や動物臭のような複合的な悪臭に変わります。人の体では、汗腺のアポクリン腺や皮膚の常在菌が多い脇の下、汗腺のエクリン腺が多い足の裏、皮脂腺が発達している頭皮などにそのような成分が含まれ、気になるにおいが発生しやすいことが分かっています。 五感の中で脳に唯一ダイレクトに伝わるのが嗅覚です。人がにおいをキャッチすると、その“におい情報”は感情や本能を司る大脳辺縁系に伝わり、さらには自律神経やホルモンのバランスに関係する視床下部や感情を司る扁桃体にも伝わります。そのため、嫌なにおいを察知すると不快になったり、ストレスを感じたりするなど気になってしまうのです。 においの感じ方には慣れや個人差もありますが、私たちが意識しているよりも心や体に作用していると言えるでしょう。
コートなどににおいが蓄積されることも(写真はイメージ)【写真:写真AC】
臭くなりやすい理由は次の3つあります。それぞれのプチ対策と一緒に見てみましょう。<1. 室内が暖かいため厚着でいると蒸れやすい> 冬の外出時は厚着をしますが、電車や部屋の中は暖房が効いています。外にいたままの厚着でいると、汗をかくことに。特にタイツやブーツなどは履いたままでいる時間が長いので、暖かい室内に長時間いると蒸れやすくなるでしょう。 冬なのに何か臭いような気がする時は、汗で発生したにおいが厚手の衣類にこもることで“におい濃度”が上昇している可能性もあります。出先で屋内外を移動する時は、脱いだり羽織ったりできる重ね着で温度調整をすると良いでしょう。冬だからと油断せずに、デオドラントパウダーや汗拭きシートなどを活用してみるのもおすすめです。<2. 厚手のコートやセーターなど頻繁に洗わない衣類が多い> コートやセーター、手袋、ストールといった冬用衣類や小物は、夏用と比べて頻繁に洗わないものが多いかもしれません。衣類には自分の汗に加え、外から付着したにおいもしみ込む“ダブル臭”が蓄積されます。においが付着したままの衣類や小物を家のクローゼットなどで保管すると、クローゼット全体がにおったり、部屋まで臭くなったりすることも。 すぐに洗えない冬用衣類や小物は、入浴後の浴室で吊るした後に風通しの良いところで干すと付着したにおいが取れやすくなります。衣類用のアロマ消臭スプレーなどを上手に活用するのも良いでしょう。また、体の汗対策には、吸湿性や速乾性がありすぐに洗える素材のインナーを着用して、アウターに汗が移らないようにカバーするのもおすすめです。<3. 寒いと汗腺機能が低下して汗が濃くなる> 体全体の熱を下げる必要がない寒い時期は、一般的に汗を排出する汗腺機能が低下すると言われています。その状態で汗をかくと、本来のしっかりとろ過された汗ではなく、うまくろ過されていない“濃い汗”が出てくるのです。その汗を細菌がエサとして分解するので、不快さが増したにおいが発生しやすくなります。これが夏よりも汗臭くなる理由と言えるでしょう。 極力回避するには、適度な運動やじっくりと湯船に浸かった入浴など、冬でも汗をかくための習慣を心がけましょう。湯船に浸かるのが難しい場合は、手をお湯につける「手浴(しゅよく)」がおすすめです。バケツなどに40度程度のお湯を入れ、服を着たまま10分ほど手を浸すだけ。手を温めると体の血行が良くなり、全身浴した満足感が得られるため、介護ケアでも注目されています。 また、セルフマッサージやお気に入りのアロマを活用すると、よりリラックスできるでしょう。汗をコントロールしている自律神経のバランスを整えることも大切です。 寒いのに汗のにおいが気になったら、衣類や汗の対策を実践してみてはいかがでしょうか。においの感じ方は人それぞれ。汗は誰でもかくものですが、心配なことがあれば信頼できる医療機関に相談しても良いでしょう。ちょっとしたケアで心地良く一年をスタートさせたいですね。【参考】「嗅覚とにおい物質」におい・かおり環境協会、p.76,2003環境省大気生活環境室「におい・かおり環境学会誌」35(2)p.30,2004
鈴木 理惠