図1 クルマのライフサイクル全体でのCO2ゼロを目指す (出典:トヨタ自動車)
電気自動車は走行中こそゼロエミッションだが、EVやEV向けの部品や材料を生産する工場での電力や、充電スタンドなどでの電力に火力発電所からのエネルギーを使っていればゼロエミッションにならない。このため、内燃エンジンも併用するHEV3台分とBEV1台分が同程度のCO2削減効果があると見積もっている。これまでHEVの普及によって少ない電池量で効率良くCO2外出量を削減してきたが、BEVやPHEVをさらに普及させることでCO2排出量をさらに抑えることができる。トヨタが目指すのは、車両を製造する工場での電力も含めてゼロエミッションにすることである。
これまでトヨタはHEVに力を入れてきた印象があるが、これまでも実は電池を使った車両の走行データを大量に持っているという強みがある。車両走行と電池本体の挙動をこれまでの開発の中で見えるようにしているという。例えば電池を開発する中で、電極材料の劣化がどのようにして進むのか、というメカニズムや、劣化の程度を示す様々なデータを貯めている。
電池を利用する立場から見ると、電池のセルは必ず直列・並列に接続して使う。一般にバッテリーパックと呼ばれる電源全体は、10~12個のバッテリモジュールで構成されており、1個のバッテリモジュールには数十~百数十個のセルが接続されている。これらのセルの電圧、電流、温度を1個ずつ測定し、さらにモジュールの電圧、電流、温度を測定し、全体のバッテリーパックの電圧、電流、温度を測定する(図2)。
トヨタには、1万チャンネルの電池セルの電圧、電流、温度を測定する設備を備えているという。新しいセンサを使って電圧と電流、温度を常に測定しておく。測定データは膨大になる。HEVでのニッケル水素電池でもリチウムイオン電池でも同様だとしている。例えば、電解液の成分が偏っていると充放電時の発熱部分が不均一になる。それをモデルベースでシミュレーションしたり、等価回路で表現したりするだけではなく、これら電圧と電流、温度の多重測定により、異常発熱の兆候を検出し、未然に異常を防ぐことができるようなノウハウを得ている。これがトヨタの強みだという。
セルそのものの正極(リチウム化合物)、負極(黒鉛やシリコン)の電極構成において、負極表面にリチウムを含む劣化物を抑えるための表面処理を行うといったセルそのものの開発、改良によるデータやノウハウの蓄積もある。ニッケル水素電池で培った技術をリチウムイオン電池に活かす技術蓄積も利用する。
電池はニッケル水素からリチウムイオンへシフトするのではなく、それぞれを使い分けることで製品ポートフォリオを拡大、伸ばしていく。瞬発力はニッケル水素電池、持久力ならリチウムイオン電池、と使い分ける(図3)。このため、ニッケル水素電池が近いうちに消え去ることはないようだ。
むしろ、HEVに使われているニッケル水素電池でも進展がある。トヨタは、バイポーラ型と呼ぶ構造で、直列接続する場合に配線を共通化することで同じ体積で出力を2倍に増強できる。電池の小型化を進めていく。新型アクアに搭載する。
リチウムイオン電池が目標とすることは全固体電池の採用である。従来の液体電解液を利用するバッテリと異なり、液漏れの心配がなく、発火しにくい、などのメリットがある。すでに2020年6月に試作車を発表、データを取得し、車両ナンバーを得た。しかし、固体中をイオンが高速に動くため、寿命が短いのではないかという問題があるという。このため、全固体電池の開発ではトヨタ1社だけではなく、いろいろな企業とコラボレーションして協業するエコシステムを構築していく必要がある。
一方で、トヨタ独自の開発体制もある。今後は電池の開発では、車両と電池を一体化して開発する体制が必要となるという。例えば電池単体でのコスト削減を図ると共に、車両の開発では電費の30%改善により、電池のコストを半分にすることを目指す。EVの普及に低コスト化は欠かせないからだ。電費の改善では、車両の走行抵抗の低減や、ブレーキをかける時に回生ブレーキによるエネルギー回収、車両やパワートレインの設計の最適化など設計上からもさらなる改善を進める。