パナソニック専務執行役員 アプライアンス社の品田正弘社長
発表したのは、3つの新製品と、3つの新サービス。そして、今後の商品化計画を明らかにしたのが1製品。これに加えて、今年に入ってから発表済みの加湿空気清浄機や、ななめドラム洗濯機、LEDシーリングライト、マイスペック家電といった7種類の新製品と、2つのサービス、ひとつの技術も、同様のコンセプトの家電に位置づけた。
新製品として発表した、ルームエアコンの「エオリアLXシリーズ」は、シーン推定自動運転機能の搭載により、スマートフォンのGPSで帰宅中であることを検出すると、自動でエアコンを運転し、事前に部屋を快適にする。また、エアコン本体の照度センサー情報から、寝室への入室時間や入眠時間をAIが学習し、寝室入室前にエアコンをオンにすることを勧めたり、入眠時には自動で睡眠に適した温度に調整する。
レイアウトフリーテレビと呼ぶ43V型液晶テレビ「4Kビエラ TH-43LF1」は、モニター部とチューナー部を分離し、これを無線で接続。モニター部はアンテナ線接続が不要となり、電源コード1本だけで、自由に視聴場所を動かすことができる。キャスター付きスタンドを使用すれば、より簡単に、好きな場所に移動可能だ。
セパレート型コードレススティック掃除機「パワーコードレス MC-NS10K」は、スティック本体からダストボックスを分離。充電台に本体を戻すだけで、1回の掃除ごとにたまったゴミを、充電台内蔵のクリーンドックの紙パックに自動で収集。スティック掃除機本体のゴミ捨てが不要になり、ダストボックスがない分、本体重量は1.5kgへと軽量化できた。
さらに、今後の製品化を発表した寝室用エアコンでは、長年の睡眠研究で蓄積した知見を活かし、就寝中に1人ひとりにあった快適な睡眠のための環境を届けることができるという。同社によると、エアコンの使用データをもとに分析したところ、寝室では、夜間にエアコンのリモコンを操作する人は約3割に達しており、その61%が設定温度の変更だという。また、風量や風向きを変える人も少なくない。「就寝時には、エアコンの運転、動作に対して、十分な満足が得られていない。センシング技術とAIによって、就寝時のエアコン稼働の課題を解決できる」とする。
一方、新サービスでは、IoT対応家電の動作状況やくらしに役立つ情報を、スピーカー搭載の家電が音声で知らせる「音声プッシュ通知サービス」、IoT対応家電のメンテナンスや修理が便利になる「Panasonic Care」、エアコンのクリーニングが必要なタイミングに通知する機能を強化した「エアコンクリーニングサービス」を発表した。
パナソニック アプライアンス社副社長兼日本地域コンシューマーマーケティング部門長の河野明氏は、「家電のIoT化により、家電がネットにつながることで、捉えにくかった暮らしの変化や困りごとをきめ細かく理解できる。一人ひとりのお客様の暮らしに、1台1台がもっと寄り添うことができる。新たな製品やサービスにより、一人ひとりの暮らしに寄り添う家電を実現できる」と自信をみせる。
パナソニックは、創業100周年を迎えた2018年に、「2021年までに、家電のすべての商品カテゴリーにおいて、知能化を図る」と宣言した。知能化した家電とは、IoTでつながり、AIで分析することで、家電が賢く進化を続け、人に寄り添った提案を行う製品である。河野部門長は、「目指してきたものがすべて整ったとはいえないが、それを体感してもらえる商品、サービスが主要なカテゴリーで出揃ってきた」と位置づける。
パナソニック アプライアンス社では、同社・品田カンパニー社長の号令のもと、2020年に、新家電くらしクリエーションセンターを設置。今回発表した「一人ひとりに、ちょうどいい暮らしを実現する家電およびサービス群」は、この組織を司令塔として開発が進められてきたものだ。
顧客とつながるためのネットワーク技術や、デジタルを活用したアップデートを行うための仕組みを検討。IoT家電の実現に必要となる、つなぐための通信モジュールの設計やソフトウェアの共通化などを図り、それぞれの製品開発部門が、これらを活用しながら、新たな家電の開発に挑んだ。
今回の「一人ひとりにちょうどいい暮らし」を実現する新たな家電およびサービスは、いくつかのポイントがある。
ひとつめは、顧客視点からのモノづくりを改めて徹底した点だ。
河野部門長は、その一例として、2021年9月から発売したマイスペック家電を例にあげる。
マイスペック家電は、スマホアプリから、自らの用途に最適な機能だけを選択。使い方をシンプルにしながら、生活スタイルや嗜好の変化に伴って、機能を入れ替えたり、足したりすることができる。
現在、IHジャー炊飯器「ライス&クッカー SR-UNX101」、オーブンレンジ「ビストロ NE-UBS5A」の2機種をラインアップ。ライス&クッカーでは、25通りのコースから、スマホを使って、3つのコースを選んで登録でき、オーブンレンジでは、最初は角皿(オーブン皿)だけを同梱し、温めや解凍、煮物などの利用ができるが、別売りのグリル皿やスチームポットをあとから購入し、スマホで登録すると、新たな調理機能を追加。グリル料理や蒸し焼き料理などの調理が可能になる。
同社の調査によると、炊飯器の最上位モデルでは、430通りの炊き分けができるようにしていたが、多くの利用者が1カ月間に使用しているのは3コースだけだったという。
「他社の商品を意識したモノづくりになると、どんどん機能が積み重なっていく。しかも、一度搭載した機能は減らさないため、ハイスペックになり、フルスペックになる。ところが、これらの機能を、ユーザーは使っていないし、欲しいとも思っていない。顧客起点で考えたときに、どういうものが求められているのか。顧客起点に立って開発した家電の典型がマイスペック家電である」とする。
また、パナソニックは、ライス&クッカーという、同社にとっては新たなモノづくりにも挑んだ。
「炊飯器には、メーカーとしてのこだわりがあり、その結果、ごはんを炊くことしかやらなかった。だが、購入する側は、キッチンでいろいろな調理ができる器具が欲しいと思っている。ごはんがおいしく焚けて、ほかの調理もできるほうがいい。その点が顧客起点ではなかった」とする。
2つめは、「一人ひとり」という切り口での提案だ。
パナソニックの家電は、これまで「標準世帯」という考え方を用いて、モノづくりが行われてきた。夫婦と子供2人という家族構成をベースにし、そこからマスで受け入れられる商品企画が行われてきた。
だが、晩婚化や未婚化、少子化により小世帯が増加。コロナ禍における新たな生活様式の定着により、世帯の形態や暮らし方が多様化しており、自分に本当に必要なものを選んで暮らしを再設計する人も増加。標準世帯を前提とした商品、サービスだけでは多様なニーズに対応できなくなっている。
パナソニックでは、そうした変化に対して、「一人ひとり」という切り口を取り入れた。そして、「一人ひとり」に向けたモノづくりという考え方だけではなく、「一人ひとり」とつながるということも含まれている。
「商品を売ったら終わりではなく、売ってからはじめてお客様とのお付き合いが始まるというビジネスモデルに変えていきたい。そのために、『一人ひとり』という考え方が必要だった」と、河野部門長は語る。
パナソニック アプライアンス社では、2024年までに、IoT家電の構成比率を6割にまで高め、1,000万人と深くつながるという目標を新たに掲げた。
現在、パナソニックの家電では、テレビをはじめとするAV機器では、6~7割のネット接続率となっているが、白物家電は約3割に留まる。ネット接続が最も高いロボット掃除機でも約5割の接続率だという。約2倍となるAV機器並みの接続率へと引き上げることになるのだ。
また、CLUB Panasonicの会員数は約900万人だが、常時、接続している会員は「大多数とはいえない」(河野部門長)という状況だ。
そして、1,000万人の目標は、CLUB Panasonicの900万人の会員数を、100万人増やして、1,000万人にするのではなく、常にネットワークでつながり、パナソニックの家電やサービスを利用している人を、新たに積み上げて、1,000万人にするという意味がある。ハードルが高い目標だと捉えることができる。
だが、パナソニックの家電の6割がネットにつながり、常に1,000万人のつながるユーザーが確保できると、パナソニックの家電事業は大きく変化する。1,000万人のユーザーが、次もパナソニックに買い替える確率が高くなり、同時に、収益性が高いノンハードビジネスの拡大に向けて強固な地盤が完成することを意味するからだ。
パナソニックでは、家電事業におけるノンハードビジネスの事業構成比として、まずは1割を目指すという。
「一人ひとりに向けた家電やサービスを通じて、パナソニックの製品を購入してよかったといってくれる人が増えることを期待している。熱狂的なパナソニックファンを一人でも増やし、次もパナソニックを選んでいただき、常につながりながら、生涯のお付き合いをすることで、ビジネスも成長させたい。2024年までに、その地盤を作り上げたい」とする。
パナソニックには家電をはじめとして、多くのカテゴリーのコンシューマ商品があり、あわせて住設を加えた暮らし全体での提案も可能だ。1,000万人の地盤ができれば、成熟したと言われる家電市場においても、安定基盤の構築ができるとともに、そこに向けたグループ全体での新たな需要創出の地盤を得ることもできる。
そして、1,000万人がつながれば、ユーザーの利用状況が、より明確に可視化でき、生活スタイルの変化にあわせたモノづくりやサービスを、迅速に創出することができる。製品やサービスへのフィードバックによって、顧客との関係は、好循環化することになる。
IoT家電の構成比率6割、1,000万人と深くつながるという2024年に向けた目標は、パソナニックが、家電事業を次のフェーズに向かわせるという点で、重要な意味を持った宣言だといえる。
つながるという点で、パナソニックには、大きな強みがある。それは、物理的な接点を持つという点である。
今回、新たに発表した「Panasonic Care」で、パナソニックが目指しているのは、デジタルでつながるだけとの取り組みではないことを示すものだといっていい。
Panasonic Careは、IoT対応家電のメンテナンスや修理が便利になるサービスで、1台1台の使用状況に応じて、お手入れのタイミングを知らせるとともに、部品や消耗品を届け、快適に使用できるようにサポートする。メーカーによる1年保証や、家電量販店などの長期保証とは異なる、メーカーならではのワン・トゥ・ワンサポートだと位置づける。
河野部門長は、「フィジカルなタッチポイントを持っていることが、今後の強みになる」とし、このサービスが、パナソニックと顧客とのつながりの強化に大きな役割を果たす可能性を強調する。
課題は、いかにして、多くのユーザーに、パナソニックと深くつながってもらうかである。
パナソニックでは、QRコードをスキャンするだけで製品登録が簡単に行えるサービスを開始。これにより、製品に関連する情報を提供したり、家電の利用をサポートしたりすることになる。
パナソニック アプライアンス社の品田社長は、「デジタルデバイドを生み出すという、新たな社会課題が顕在化している。家電はこれまで、誰もが簡単に、安心して使える身近なものとして、テクノロジーを浸透させ、暮らしの進化を支えてきた。それと同じようにIoT家電でも、圧倒的な簡単接続と、簡単操作によって、デジタルとの距離を感じる方々を含めて、取り残してはいけないと考えている」と語る。
また、河野部門長は、「家電をネットにつなぎたくないというのではなく、つなぎたいと思ったが、途中でやめてしまったという人が少なくない。まずは、つなぎやすくするということを提案した」とする。
こうしたデジタルリテラシーの課題を解決するための取り組みは、今後、さらに強化していくことになるだろう。
デジタルリテラシーの課題とともに、デジタルインフラの課題も解決する必要がある。住宅内の無線LAN環境が整備されていないと、IoT家電の接続率は高まらない。コロナ禍において、ライフワークの変化に伴い、家庭内でもネットワーク環境を整備する動きが進んでいるが、すべての家庭に普及しているわけではない。
ここで重要な役割を担うのが、街のでんき屋さんである「パナソニックのお店」だ。
河野部門長は、「地域に密着したパナソニックショップを通じた提案により、家庭内の無線LAN環境を整えながら、IoT家電のメリットを訴求していくことができる。これはパナソニックの強みである」とする。
リテラシー向上とインフラ整備の観点から、デジタルを浸透させていることが、パナソニックにとって、重要な取り組みになるのは確かだ。
そして、何にも増して、ユーザーが、つなぎたいと思ってもらえる仕掛けが必要だ。
「つなぐことで得られるメリットがわからないという人が多い。これは、言い換えれば、つながることで、どんなベネフィットがあるのかを、きちんと提示できていないことでもある。その点は反省しなくてはならない。つなぐことでベネフィットを感じてもらい、こんなに便利だと思ってもらうことが大切である」とする。
品田カンパニー社長は、「この100年、パナソニックは、テクノロジーを誰もが使える形にして、世界中の顧客に届け、暮らしの定番となる商品を作ってきた。これからも、未来に続く定番となるような商品を作りつづけていく」と宣言する。
パナソニックが打ち出した「一人ひとにちょうどいい暮らし」を提案する新たな家電は、モノづくりの変化、サービスの創出、デジタルに関わる環境整備まで含むものになる。家電事業そのもののフェーズチェンジを伴うものになるといえそうだ。