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[表示]事業規模がある程度以上大きくなった企業は、傘下にいくつもの子会社を持つグループ企業へと成長していきます。このグループ企業の組織編成にはいくつかの様式があり、それぞれに長所と短所があるため、各グループの経営方針や収益構造、ターゲットとしているマーケットになどを考慮しながら企業体の編成方法が選択されます。この企業体の編成方法の一つとして、いま注目を浴びているのが「コングロマリット」です。本記事では、コングロマリットの特徴やメリットなどについて解説していきます。
コングロマリット(conglomerate)とは、業種の異なる企業同士の合併や買収などによって発達した企業体を指します。厳密には、多業種にまたがる企業体でなければコングロマリットとはいいませんが、同業種で構成されたグループ企業体もコングロマリットと呼ばれることがあります。
コングロマリット型の多角経営を行うと、既存の事業とは技術も市場もまったく関連性のない事業分野へ参入することになります。グループ企業内のビジネスモデルのポートフォリオを考えた場合、このような異業種への参入は、ビジネスモデルのリスクヘッジ効果を期待できます。とくに、アフターコロナの世界がどのように変わるのかが不透明である以上、生き残りのためのリスクヘッジを考えるならば、コングロマリットは理想的な経営戦略といえるでしょう。また、楽天のようなコングロマリット型戦略を取る企業の業績が好調なのも、注目されている理由の一因です。
次に、コングロマリットの効果について解説します。コングロマリットを形成すると、グループ企業内に以下の効果が発生するといわれています。
コングロマリット・プレミアムとは、コングロマリットを形成したことによりグループ企業内でのシナジー効果が狙い通り発生し、投資家の期待通りの収益が上がることにより株価などが上昇することをいいます。コングロマリット・プレミアムを発生させるためには、グループ内での技術共有による事業間シナジーや、巨大な事業規模を営業活動や資金調達に活かすコーポレートシナジーなどを生み出す必要があります。
コングロマリット・ディスカウントとは、多方面戦略が仇となり、シナジー効果がマイナスに働く状態のことをいいます。ビジネスモデルのリスクヘッジと新分野開拓のために既存のグループとは何の関係もない異業種を取り込んだ結果、シナジー効果を発生できない場合などにコングロマリット・ディスカウントが生じます。
コングロマリット型多角化戦略のメリット・注意点について整理してみましょう。
企業がコングロマリット型多角化戦略をとるメリットは、おもに以下の3点です。
コングロマリット型の経営を行うと、グループ内にまったく異なる事業を行う企業が複数存在することになります。その結果、これまで持っていなかったノウハウや考え方、技術などの共有が可能になり、想定していないシナジーが生まれやすくなります。
この成功例が日立製作所です。あらゆるモノがインターネットと繋がるIOTの時代を迎え、多彩なグループ企業を抱える日立製作所では、デジタルソリューション事業を中心に「OT(制御技術)」と「IT(情報技術)」と「プロダクト」を組み合わせたサービスの提供を開始します。その結果、グループ内でのシナジー効果を生み出すことに成功しました。
ビジネスモデルが消耗されるスピードは、年々早くなっています。昨年まで上手く行っていた事業が、ある時点でまったく目処が立たなくなってしまうのは珍しいことではありません。コングロマリットは多方面にビジネス展開を行う戦略のため、このようなリスクを分散できます。
リスク分散に成功したコングロマリット企業の代表がソニーです。ソニーはもともと「ウォークマン」を世界的に大ヒットさせたテープレコーダーなどの製造会社でした。しかし、コングロマリット化した現在のソニーの主力事業は「ゲーム機の販売及びそのネットワークサービス」です。また、金融部門も順調に伸びており、かつて主力だった電気製品部門に追いつきそうな勢いで伸びています 。このように、ソニーグループはコングロマリット化したことにより、各事業部門のリスク分散に成功しています。
コングロマリット型戦略はまったく異なる市場へ進出するため、短期間でシナジーや成果を生じさせるのには向いていません。しかしその分、中長期的に計画を立てられるのであれば、シナジー効果の創出に基づく新たなビジョンが描きやすいといえます。
これは、日本を代表するインターネット関連企業の楽天が非常に得意としています。イーバンク銀行 を2009年2月に子会社化し、楽天銀行としてじっくりと再生の道筋をつけ、今ではグループ内の金融サービス部門の中核をなす大切な事業部に育て上げています。
対して、コングロマリット型の多角化戦略を行う際の注意点は、おもに以下の4点です。
上述のように、コングロマリットは既存の技術や市場とは関連性のない新たな市場へビジネスを展開していくため、短期的な成果を求めるのには向いていません。コングロマリットを行うのであれば、じっくりと腰を据えて中長期的にプランを練らなければなりません。
コングロマリットを戦略として取る場合、グループ内に異業種が混在するため、上手く行けばまったく新しいノウハウやビジネスに対するアイデアが生まれることがあります。しかし、失敗してしまうとグループ内の意思の疎通が進まず、コミュニケーション不足に陥ってしまいます。こうなってしまうと、新しい技術や知識の共有ができないため、シナジーが生み出しにくくなるでしょう。
コングロマリットは、上手く行けば中長期的にシナジーを創出できますが、歯車が狂うとグループ内の企業同士が共倒れを起こしてしまうリスクがあります。そのため、一歩間違うと企業価値が低下し、投資家からの評価が下がってしまう場合が考えられます。
コングロマリット型の経営は、グループ内に異業種を多数抱えているため、それぞれの企業や事業ごとに経営戦略や方針が異なります。各事業間に関連性はほぼないため、実態としては各事業が独立して存在しているような状態です。したがって、グループ全体を統治するのがほかの事業形態と比べると難しいです。
冒頭で述べたように、企業体を形成するための組織編成には、コングロマリット以外にもさまざまなものがあります。その中でもとくに代表的なのが以下の4つです。それぞれの違いを見ていきます。
トラスト |
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コングロマリットが異なる業種を営む企業の集合体であるのに対し、トラストは同一業種を営む複数の企業同士が集まってグループ群を形成することをいいます。トラストを形成することによりシェアを一気に拡大できるため、過剰な競争による価格低下を防ぎ、市場での独占力を高められます。ただし、過度なトラストは市場の競争原理を歪める可能性があるため、公正取引委員会から独占禁止法違反の判定を受けないようにしなければなりません。 |
コンビナート |
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コンビナートとは、ロシア語で「結合(kombinat)」を意味する言葉で、生産を効率的に行うために生産工程に関わる企業を一定地域で結合した企業体のことです。製品の製造工程で生じるコスト、減損や損耗、時間的ロスなどデメリットや無駄をなくすため、製造工程に関わる企業をある特定の地域に集結させ、複合企業として形成させたものがコンビナートです。 |
カルテル |
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カルテルとは、同一業種を営む事業者同士が、市場を独占して価格や生産計画などの調整を自分たちの優位になるように行うための協定のことをいいます。なお、カルテルはコングロマリットとは違い、グループ内の企業同士に資本関係はありません。 |
コンツェルン |
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コンツェルンはドイツ語の「グループ(Konzern)」を意味する言葉で、持ち株会社などを頂点にして子会社群・孫会社群を形成し、市場の独占を目的とする企業体のことをいいます。コングロマリットがリスクを減らしチャンスを増やす目的で多方面の業種を内包しているのに対し、コンツェルンは一業種で市場を独占することを目的としています。日本では戦前の財閥がコンツェルンにあたりますが、GHQにより財閥は解体され、その後独占禁止法によって持ち株会社の設立は禁止されました。しかし、この法律はM&Aを通じて組織再編を行うための障害となっていたため、1997年に改正され、持ち株会社の設立が解禁されました。 |
企業グループの多角化戦略は、コングロマリット型のほか、以下に分類できます。それぞれについて見ていきます。
水平型多角化戦略とは、既存の事業や技術を転用して、現在の市場と似た市場に新製品を投入していく多角化戦略。自動車メーカーが電動バイクを生産する例などが、この水平型多角化戦略にあたります。コングロマリットが異業種に進むのに対し、水平型多角化戦略は既存の事業で得られたノウハウを転用するため、低リスクでシナジー効果が期待できるでしょう。
垂直型多角化戦略とは、既存の顧客やそれに類似する顧客に対し、新製品を投入していく多角化戦略。食洗器メーカーがシステムキッチンを生産する例などが、この垂直型多角化戦略にあたります。コングロマリットと比べると、既存の顧客層へ新製品を訴求していく分だけ顧客のニーズが掴みやすく、リスクを低く抑えることができるでしょう。
集中型多角化戦略とは、既存の技術と関連性の高い製品をまったく新しい市場へ投入していく多角化戦略。デジタルカメラのセンサーを医療技術に転用する例などが、この集中型多角化戦略にあたります。コングロマリットとは違い、既存の技術と関連性の高い商品を製造するため、開発費削減などのシナジー効果を生みやすい多角化戦略といえるでしょう。
コングロマリットM&Aとは、多角化戦略を進めるために異なる業種の会社をM&Aによってグループ企業として迎え入れる経営戦略のことです。なお、コングロマリット型の企業群は、おもに以下のどれかの方法で形成されます。
資本提携 | 一方(もしくはお互い)が他方の株式を持つことによって資本関係を構築し、お互いに業務面や資金面で協力し合うことをいいます。なお、お互いの独立性と経営への影響を考慮に入れ、多くは持ち株比率を1/3以下に設定します。 |
買収 | 被買収会社の株式を取得することにより子会社化するのが買収です。とくにM&Aの場合は、発行済株式のすべてを取得するケースがほとんどのため、被買収会社は買収会社の完全子会社となります。資本提携と比べると資本の結びつきが強くなるため、コングロマリット内の企業同士の結束も大変強いものになるといわれています。 |
合併 | 2つ以上の法人を1つの法人格に統合する組織再編のことです。独立した企業同士で合併が行われる場合や、コングロマリットなどのグループ内の再編で合併が行われる場合などがあります。合併会社が被合併会社を吸収する「吸収合併」と、被合併会社をすべて消滅させて新設合併会社を設立する「新設合併」の2つがあります。 |
コングロマリット型M&Aによって多角化戦略を進めるためには、グループ内の統合をできるだけ早く確実に行うことが大切です。技術もノウハウも市場も異なる企業を束ねて統括し、シナジー効果を生み出すためにはM&A後のPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション:M&A後の統合プロセス)が成否を握ると言っても過言ではありません。PMIに関する知識やプロセスの管理は専門性が高く大変難しいため、PMIの経験が豊富な仲介会社でなければ狙ったシナジー効果を生み出すことはできません。したがって、コングロマリット型M&Aの成功確率を上げるためには、M&A仲介会社の選択が最重要事項の一つであるといえます。
コングロマリットはほかの多角化経営とは違い、まったくの異業種をグループ内に取り込みながらシナジーを生み出す戦略をとっています。新型コロナウイルスによって経済が不安定ないまの状況を鑑みたとき、ビジネスモデルのリスクをヘッジすることに長けたコングロマリットは、これからの時代を切り拓くための企業戦略には相応しいものです。ただし、異業種を統合し、企業体としてのガバナンスを効かせるためには、M&A後のPMIが非常に重要です。そのため、M&A仲介会社を選ぶ際には、PMIの経験が豊富であるかどうかを選択基準に選ぶのがよいでしょう。
日本M&Aセンターグループでは数々のPMI支援を行っております。公認会計士とファシリテーション経験の豊富なコンサルタントが所属しており、財務面・内部統制面の融合だけでなく、組織融合面・コミュニケーション面の両面でサポートいたします。またM&A仲介ビジネスを行う当社ならではの、M&A実行前からPMIに向けて専門家とともに着手できることが最大の特徴です。M&AやPMI、そのほか経営課題に関するご相談を受け付けております。ぜひお気軽にお尋ねください。お問合せはこちらから
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