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パナソニック 60か国以上に展開する「海外電設資材事業」とは

パナソニックの創業の商品は電設資材である。これは、松下幸之助の“安全で便利な”電気のインフラをあまねく家庭に届けたいとの想いからだ。その想いを受け継ぎ、同社の電設資材事業は、国内のみならず海外60か国以上に展開。日本式生産環境・生産方式の導入を行い、現地の信頼も得ながら、さらなる飛躍に向けて取り組みを加速させている。


創業の商品は配線器具日本だけでなく海外にも展開

パナソニックグループの2021年度の売上高は約7兆円。事業領域は家電、空調、コールドチェーン、住宅用部材・建築資材、IT機器、電池などと多岐に及ぶ、日本を代表するものづくり企業である。

だが、その原点は1918年に松下幸之助が改良を重ねて開発した「アタッチメントプラグ」という配線器具だった。当時、住宅の電源は壁に設置したコンセントではなく、天井に設置された電灯ソケットから確保していた。電化商品の電源を得るために、電化商品と電灯ソケットをつなぐ役割を果たすのがアタッチメントプラグであり、これのおかげで当時の家庭は“安全に”電気を使えるようになった。

さらに、松下幸之助はアタッチメントプラグの発売から2年後の1920年、二股ソケット「2灯用クラスタ」を開発。電源を2カ所確保できるので、片方のソケットには電球を設置して部屋を照らしながら、もう片方のソケットにはアタッチメントプラグを差し込んで電化商品も使用できるようになり、電気をより“便利に”使えるようになった。

パナソニックグループの社員は誰でも創業の商品がアタッチメントプラグであることを知っており、配線器具を扱う電設資材事業には特別な想いがあるという。それだけに、世界中で電気を“安全で便利に”使えるよう、電設資材事業に力を入れている。

パナソニックの電設資材事業では配線器具、電路機器、配管機材の提案を行っている。このうち、主力の配線器具については、日本ではコンセントやスイッチなどでトップシェアを誇る。海外でも60か国以上に展開しており、韓国、台湾、フィリピン、ベトナム、インド、トルコ、タイ、インドネシアなどでトップシェア(パナソニック調べ)を持っている。さらに、最近は現地企業の買収により展開地域を拡大する戦略を取っており、安全で便利な電気のインフラを世界に広げるため、一層、海外展開を加速させている。

日本式生産環境・生産方式の導入で海外でも日本レベルの品質を確保

パナソニックが配線器具の海外展開を行っていくうえで重要だと考えていることの一つが、品質の確保だ。

日本で提供している品質を海外でも提供できなければ、真の意味で安全で便利な電気のインフラを世界で実現できるとは言えない。こうしたことから、買収した現地企業については、日本の生産環境・生産方式を導入することで、品質の担保を図っていこうとしている。

パナソニック 60か国以上に展開する「海外電設資材事業」とは

例えば、2007年に買収したインドのアンカーエレクトリカルズ社(現パナソニック ライフソリューションズ インド)については、買収当時は暗く、汚く、暑い工場だったが、買収後は明るく空調の効いた生産環境に整え、今ではゴミもなく在庫が整然と並んでおり、日本の工場と見栄えが変わらないほどになったという。

品質を担保するため、従業員の能力向上にも力を入れている。例えば日本で技能実習生として研修を受けた人材が母国へ帰る際は、現地のパナソニックの工場で製造のリーダーとして迎える。日本で学んだことを現地の従業員に伝えることで、日本のパナソニックの“安全で便利な電気のインフラを世界に広げる”という理念や技術が海外の工場にも広がっているという。

従業員の能力向上という点では、「スキルスクール」も開催している。海外では流れ作業によるライン方式の生産体制の工場が多いが、パナソニックの海外工場では日本のセル方式の生産体制を導入している。セル方式は一人が担当する工程が多く技術力が求められるため、スキルスクールを開き、現地の従業員がしっかりと技術を学べる機会を作っている。

一方で、海外で販売する商品は、日本レベルの品質はしっかりと確保しながらも、日本の商品をそのまま展開するのではなく、現地の需要に合わせたものを提案するようにしている。コンセントやスイッチは国ごとに多種多様な形、デザイン、機能を用意しており、商品開発の際には、現地の人材ならではの発想を取り入れるようにしているという。

現地従業員の“信頼獲得”を何より重視工場敷地内に社内託児所も

もう一つ、パナソニックが配線器具の海外展開で重要だと考えていることが、現地の従業員の信頼を得ることだという。

外国の企業が自国の企業を買収し、これまでの生産環境や生産方式を変えようとすれば、当然、現地の従業員の中には反発する人もいるだろう。それでは、高い品質の商品は提供できない。だからこそ、まずは現地の従業員の信頼を得ることが重要だと考えている。

そのための取り組みとして、パナソニックが力を入れて取り組んでいるのが、従業員が安心して働ける環境づくりだ。その一環として、例えば、前述のアンカーエレクトリカルズ社を買収した際には、ダマン工場とハリドア工場の敷地内に託児所を新設し、小さな子どもがいても働きやすい環境づくりに取り組んだ。また、独立記念日にカラオケ大会を催すなどし、従業員との懇親を深める取り組みにも力を入れている。

配線器具、付加価値向上でより便利に電路機器も拡大し、より安全な電気のインフラへ

パナソニックは今後も世界中で電気を“安全で便利”に使えるようにするため、電設資材事業の海外展開を一層加速させていきたい考えだ。2030年度には2018年度比で倍増となる4000億円の売上高を目指している。

そのために今後は、トルコを手始めに中央アジアへの展開を強化していく。また、アフリカへの展開も視野に入れている。

商品については、付加価値化を推進することで、様々な国で電気をより安全で便利に使えるようにしていく。基本商材のコンセントとスイッチに加え、例えばセンサーを活用し入退室時に照明が自動で付くセンサ機器など、関連商材の提供にも力を入れている。

また、配線器具に加えて、電路機器の海外への販売にも力を入れていきたい考えだ。

住宅用分電盤やブレーカなどの電路機器も配線器具と同様に、住宅の安全な電気のインフラに貢献するものである。しかし、現在の展開地域は配線器具に比べて少なく、アジアの一部やインドなどにとどまっているのが実情。こうしたことから、今後は配線器具の流通販売網を活用し、事業エリアの拡大を図っていく方針だ。特にブレーカの販売を拡大させていきたい考えで、7月にフィリピン、その後にはインドネシアへの展開を予定している。

既に供給している国についても、商材の拡大を急ぐ。東南アジアでは、都市への人口集中が加速し、大規模な集合住宅が増えているが、漏電ブレーカを設置していないところも多い。しかし、これまでは、集合住宅用の商品は十分に供給できておらず、早急に提案できる体制をつくっていきたいとしている。

どの家庭にもあまねく安全で便利な電気のインフラをーー。松下幸之助が創業時にアタッチメントプラグと二股ソケットで実現しようとしたこの想いは、今もパナソニックグループの中に脈々と受け継がれており、さらには海外現地の従業員にも着実に浸透してきている。パナソニックの電設資材事業を通じて、安全で便利な電気のインフラが世界中の家庭で実現する日は遠くないだろう。


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