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名も知れぬ中華家電が通販サイトを埋め尽くす理由 – DG Lab Haus

 かつては、有名家電メーカーのコピ−品ばかりが目立った中国の家電業界は、中国経済の発展に伴い、デザイン・品質・アイデアともに成長を遂げている。1990年代には、中国で製造し、海外市場への輸出が中心だった“made in China家電”。現在では、中国の国内市場に向けた新しい家電が次々に発表され、国内各都市で家電ショーも数多く開催されている。

 デジタルネイティブの若い世代が購買層の中心となる中国では、スマホ連動やネットワーク家電などが、日本や欧米よりも受け入れられやすい。写真のスマホ連動距離計や、AIカメラで焼け上がりを判断するオーブンなどは、中国らしい家電と言えるだろう。日本にも数万円するプロ用のスマホ連動レーザー測距儀はあるが、ここで紹介したのは3000円程度で手軽に購入できるガジェットだ。

「せがれがロボット掃除機を買ってくれたので、婆さんが腰を曲げて掃除しなくて良くなった」という広告を深セン市内で見たことがあるが、とても中国らしい広告だ。中国のロボット掃除機は、大半の機種でスマホからの操作が必要になるので、もう70歳を超える筆者の両親に送っても使いこなせるとは思えないが……。

 こうした家電は、デザインも若い人に寄せた製品が多い。深セン発のブランド「北鼎(BUYDEEM)」は、北欧や無印良品などの中国の若者が好むデザインを採用しつつ、中国茶を美味しく淹れるためのポットなど、独自進化させた家電を販売している。

販路拡大に熱心な中国家電は玉石混交

 筆者の本業は開発ボードに関する事業開発で、消費者向けの家電になるとやや専門外だが、商売柄新しい製品を見るのは大好きだ。

 ただ、弊社スイッチサイエンスは日本の法人で研究機関や企業等へのBtoB販売が主体だ。また、中国で家電の新製品を見つけても、それを日本で販売するには法規クリアやアフターサポートなどさまざまな手続きと準備が必要で、結局輸入を諦めざるをえないことが多い。一方で、こうした家電販売を手掛けている中国人ブローカーたちは、皆がそういった手続をきちんとしているとは思えない。実際に筆者が諦めた製品が日本の通販サイトで売られているのを見ることも多い。

 中国では、家電メーカーの数も多く競争も激しいので、販路を広げるためにどの企業も海外での販売を熱望している。深セン市内では頻繁に「ebayやAmazonに出店を代行します」という業者のセミナーが開かれているし、実際に何人かの友人は日本のAmazonにショップを出して、こうした家電製品を販売している。

 法規クリアやアフターサービスは、出品先の通販サイトの規約に依存する。対応が不十分な販売業者は多くいると思われるが、通販サイトがあまり業者の質にこだわらず、規約でこういった業者を排除しないため、業者は玉石混交となる。また、消費者も価格を比較し、一番安いものを買うことを好む現状があるため、こうした状況が続いてしまっている。

 よく「通販にたくさん出ている中国メーカーの良し悪しが見分けられるか」という質問をされるが、そもそも「審査が甘くマトモに取り締まらない通販サイトに出品している時点でダメ」。

名も知れぬ中華家電が通販サイトを埋め尽くす理由 – DG Lab Haus

 メーカーの信頼性については、ひとつの基準として、日本法人がある会社なのか確認してみるといい。また、ちゃんと審査した商品を取り扱っている日本の家電量販店のサイトで購入するのもひとつの解決策だ。価格に惹かれて、大手通販サイトにたくさん並んだ名も知らぬ中国家電から選択するなら、ダメなものに当たってしまうことも覚悟して買うこと。

 さらに「充電器や充電ケーブル、モバイルバッテリみたいな、電流の大きいものは、特にきちんとしたものを使うのがオススメだよ」とも回答している。実際に筆者自身も、そういうもので安物は使わない。中国にいるので日本の法規とは別の基準だが、信頼できるかどうかを気にしながら買い物をしている。

 なお、中国国内の通販サイト、アリババ等ではプラットフォーム側が不良品への対応を代行してくれるし、話がこじれたときに介入してくれるので、むしろ日本の通販サイトより安心して買い物ができると筆者は感じている。

似たものが並ぶ中国製造業の構造

 日本では、家電や自動車など製造業の分野ごとにトヨタ自動車やSONYのように名の知られた大手メーカーが存在する。こうした大手メーカーは最終製品を作ることで利益を上げており、多くの「系列」の企業を抱えている。「系列」とは、消費者に販売する最終製品を作るメーカーが最上流に位置し、個別の部品をメーカーに納品する中小企業が並ぶエコシステムだ。

 日本の製造業の特徴でもあるこの仕組は「最終的な製品コストを引き下げる」「部分最適化を進めやすい」「上流の会社が身軽になる」といったメリットがある。下流の中小製造業は、特定の大企業に向けて個別の部品を納品する。こうした系列が存在することで、最終製品を作るのは一部の大手メーカーが中心になるため、見た目も機能もそっくりな製品があちこちの会社から売り出されるという現象がなくなる。

 一方でこうした系列ビジネスは、中国ではあまり見られない。深セン周辺には数千を超える中小の製造企業があるが、多くの会社は最終製品を作っている。部品や加工の会社も多くあるが、特定の企業とだけ取引するといったことはなく、幅広い取引先に部品を供給している。その結果、ちょっとでもヒットした製品はお互いコピーされ、性能、外見とも似たような家電製品となる。製造業展示会に行くと、ほとんど同じような製品が複数の会社で製造されて並んでいるのを見ることになる。

ムーアの法則の支配下に入った家電

 なぜ、深センではこうした状況をよしとしているのか。深セン製造業の全盛期は、家電製品がコンピューターに置き換わる時期と重なっている。例えばビデオデッキはコンピューターではないが、Apple TV他のセットトップボックスはCPUを中心にメモリとストレージと入出力機器があるコンピューター機器そのものだ。同様にフィルムの一眼レフカメラはコンピューターではないが、デジタルカメラはCPUを中心にメモリとストレージがあり、大きなセンサーと撮影専用のボタンという入力機器があるコンピューター機器そのものだ。音楽を聴くデバイスも本を読むデバイスも今はコンピューターそのものになってきている。

 半導体が主要な部品であるコンピューターは、「ムーアの法則」が働く。つまり2-3年以内に半導体の性能が倍になり価格が半分になるため、それを組み込んだ製品の低価格化、陳腐化も同様のサイクルとなる。かつて、黒電話などの電話機は性能に劇的な変化がなかったので何年にも渡って使われていたが、スマートホンはせいぜい2年ほどで買い替えられてしまう。フィルムカメラとデジタルカメラ、従来型の腕時計とスマートウォッチの違いも同じだ。

 深センのエコシステムを深く知るMITのアンドリュー・バニー・ファンは「今ビデオレコーダーを作るなら、Linuxとマイコンボードをベースに様々な知財を組み合わせて作るだろう。SONYのベータマックスとは作り方が違う」と現在の状況を解説する。

 マイコンやメモリという半導体チップの性能が上がり続けるため、新商品の発売サイクルも早くなり、製品寿命も短くなる。こうした部品を組み込んだ製品を作るメーカーも大きな系列を作って、ゆっくりと商品の最適化、販路の拡大を進めて行くことが難しくなっている。

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 筆者は深センに住んでいるので、自宅の家電はほとんどが中国製だ。スマホの管理アプリを見たところ、14個のシャオミシリーズIoT家電が、一人暮らしワンルームの筆者の部屋にある。3年余りの深セン生活で、14個の家電のうち電気ポットは2回、ロボット掃除機は1回、電源タップも1度買い替えているので、シャオミのような大手メーカーであっても、今も不良率は高いし耐用年数は短く、製造品質はあまり高くない事がわかる。それでも安いので、買い替えなどは気軽にできるし、中国国内だと家電の修理も迅速でサポートが充実しているので、目新しい新機能を当てにしてシャオミシリーズの家電を買っている。

 家電製品も「ムーアの法則」の範疇に含まれるようになったなら、それはもうかつての家電とは別のものになったのだと思ったほうがよいかもしれない。