読者の中に「○○市は住民税が高い」と聞いたことのある人がいるだろうか。SNSを見ると、京都市は……、札幌市は……、熊本市は……、神戸市は……と次から次へと出てくる。果たして実際に市町村間の住民税の差はどれくらいあるのか。
そもそも住民税を高いと感じる金額差はどれくらいなのか。住民税が年額12万円、天引きされる月額が1万円の人で、「○○市は住民税が年間300円も高い」と数百円の差が気になる人もいれば、「年1200円、月100円は気にしない」という人もいて個人差がある。住む市町村によって住民税に2割、3割の差があるとか、中には何倍も差があるとイメージしている人もいるようだ。
これは都市伝説みたいなもので、住民税はほぼ全国一律だ。税率を見ると東京都世田谷区に住んでも練馬区に住んでも住民税の税率は10%。東京ディズニーランドのある千葉県浦安市も10%。筆者の息子が住むさいたま市も10%、筆者の4人の孫がいる人口2000人の岐阜県東白川村も10%だ。
岐阜県東白川村は鮎釣りとツチノコの村。村でも税率は10%ほぼ全国一律だが一部に例外があり、都道府県の中で神奈川県だけは県民税が0.025%高く税率が10.025%。住民税が年に12万円(=1万円/月)の人が東京都から神奈川県に引っ越すと、税率部分(=所得割額)は年に300円、毎月の住民税の天引きが25円増税となる。
武蔵小杉のタワーマンションに住むと神奈川県なので税率は10.025%大都市の中で税率が低いのは名古屋市。2021年4月の選挙で4期目となった河村たかし市長の肝いり政策で市民税の税率が0.3%低く、名古屋市民の住民税は9.7%となっている。東京都から名古屋市に引っ越すと年に3600円、月に300円の減税となる。財政破綻し、かつて全国一住民税が高いと言われた夕張市は、財政再生計画の見直しにより10.5%だった税率を平成29年(2017年)から10%に戻している。市町村で税率が高いのは兵庫県豊岡市。市民税が6.1%なので県民税と合わせ住民税は10.1%となっている。市町村で税率が低いのは大阪府田尻町。令和5年まで町民税を5.4%とし、住民税が9.4%となっている。住民税の地域差は税率とは別に均等割に上乗せされる超過課税の有無がある。税率以上に複雑なので、これについては均等割の項で説明しよう。
筆者は普段は神奈川県のオフィスで仕事をしているが、自宅マンション、住民票が名古屋市なので税率は9.7%。市民として選挙にも参加なぜ都市伝説が広まるのか。筆者は住民税に地域差があるという話をリアルで2度聞いたことがある。サラリーマン時代の30代に1度、起業後の40代に1度。そもそも若いときに住民税の話しをした記憶はなく、年齢を重ねた人ほど「住民税に地域差がある」と聞く機会が多そうだ。数年前にはテレビの情報番組で芸人の「東京都は住民税高いですよね」の発言に、他の芸人とMCがうなずくシーンを見て、「数万人に都市伝説が広がった」と思った。コメンテーターの中に識者が1人いたら逆の結果になっていたかもしれない。
この都市伝説が広まった1つの要因は国民健康保険だと思われる。国保は自治体により計算式が異なり地域差も大きい。このことが住民税と勘違いされていると思われる。ただ、根本にあるのは国民が税に無関心なことだろう。差のある国保に加入する多くの人は自営業なので、サラリーマンはどこに住んでも住民税に大差はない。
総務省の広域行政・市町村合併のサイトに「本日の市町村数」が表示されている。日々変動するものではないと思うが、筆者が確認した時点では市町村の数は1718。内訳は市が792、町が743、村が183となっていた。1700ほどの市町村の住民税の詳細を知るのは容易ではない。大都市は住民税の税率や均等割などの情報がウェブで確認できるが、町村になると電話で確認することが多い。毎年、1700の市町村の改正を把握するのは難しい。自治体の数が多いことも住民税が分かりにくい理由の1つだと思う。
ちなみに明治21年には町村の数が7万を超えていたが、明治の大合併で市町村の数は1万5859となり、昭和の大合併で3472、平成の大合併で1730に減ったらしい。平成の大合併では浦和市、大宮市、与野市が合併してさいたま市、静岡市と清水市の合併などが行われた。それほど昔ではないので、近隣の合併を覚えている人もいるだろう。