31 03
焼肉店で感嘆…初めて見た、「使い倒されている」サービスロボットの姿 森山和道の「ロボット」基礎講座|ビジネス+IT

ITと経営の融合でビジネスの課題を解決する

ビジネス+ITとは?

ログイン

メルマガ登録

ビジネス+ITとは?

  • 営業戦略
  • コスト削減
  • 組織改革
  • 生産・製造
  • 危機管理
  • コンプライアンス
  • 省エネ・環境対応
  • 業種・規模別
  • 基幹系
  • 情報系
  • 運用管理
  • セキュリティ
  • ネットワーク
  • モバイル
  • ハードウェア
  • 開発
  • 関連ジャンル

    焼肉店で感嘆…初めて見た、「使い倒されている」サービスロボットの姿

    森山和道の「ロボット」基礎講座

    サービスロボットが、ついに日常風景のなかに現れた。レストランでの配膳ロボットである。人手不足を背景に新型コロナ禍による非接触ニーズが引き金となり、本格的な導入が始まった。一部店舗では既に本格的にロボットが人と協働し始めている。これまでトライアルが続いてきた他のサービスロボットと異なる姿を実店舗で見ることができた。ただし、効率化と飲食店ならではの付加価値向上の両立については各店で慎重に取り組んでいく必要がある。

    サイエンスライター 森山 和道

    サイエンスライター 森山 和道

    フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。

    <目次>
    1. ソフトバンクロボティクスが配膳ロボットビジネスに参入
    2. 本当に使われているサービスロボットの姿に感嘆
    3. 労務負荷軽減と飲食ならではの付加価値の両立、目的は「サービス強化」
    4. 高校生から主婦パートまでが「これ便利じゃん」と受け入れ
    5. オペレーションのキーはデシャップポジション担当者
    6. 配膳だけでなく、下膳にも活用
    7. 実店舗での運用ノウハウは各店舗から吸い上げ
    8. 人によるサービスを残しつつ効率化を図る
    9. 「焼肉の和民」は2種類のロボットと特急レーンを併用
    10. 中華街の飲茶食べ放題「招福門」は配膳ロボットで非接触をアピール

    ソフトバンクロボティクスが配膳ロボットビジネスに参入

     配膳ロボットが普及し始めた。飲食店の厨房(ちゅうぼう)から通路を進んで目的のテーブルまで料理を運ぶロボットだ。時には配膳だけではなく皿を片付ける下膳も手助けすることでホールスタッフの肉体労働をサポートする。本連載でも以前ご紹介した中国KeenOnの「PEANUT」等が、国内販売代理店を通じて居酒屋やラーメン店など各種飲食店に入り始めていたところに、9月末、ソフトバンクロボティクスが配膳ロボットビジネスへの参入を大々的に発表した。ロボットの名前は「Servi(サービィ)」。トレイ3段を備える配膳ロボットである。2021年1月から本格的な販売を開始する予定で、料金は3年プランで月額9万9,800円だ。 この自律走行ロボット「Servi」、ベースとなったのはソフトバンクグループが出資している米国Bear Roboticsのロボット「Penny」。Bear Roboticsは2017年に創業。CEOはJohn Ha氏。Ha氏はグーグル出身で、レストラン経営もしていた。ちなみに店は豆腐料理だったそうだ。「Penny」は、その彼の経験を元に飲食店のホールスタッフを助けることを目的として開発された。厨房とテーブル間を料理やドリンクを持って何往復もする肉体労働をサポートすることで、そのぶん生まれた余裕を使って、店全体のホスピタリティ向上を狙いとする。 ロボットとしては2輪の移動台車にLiDAR(レーザーセンサー)を搭載し、SLAM(自己位置推定と地図作製を同時に行う技術)を行うタイプだ。LiDARなしのタイプよりは値が張るが、店舗内にマーカー設置などを行う必要が少なく、変化に強い。60cmの通路を通り抜けられ、人とのすれ違いもスムーズに行えるという。カバンのような小さいものでも回避する。使い方は行き先のテーブル番号を指定し、GOボタンを押す。初期設定は必要だが、フロアの店員が行う作業は基本的にこれだけだ。複数テーブルへの配膳も可能だ。総積載量は合計で35kg。これだけあれば飲食店では十分だろう。 ロボット導入にはWi-fi環境が必要だ。そして使用前には、事前に導入店舗内のマッピング作業が必要となる。この作業はソフトバンクロボティクス側で行う。直接、「Servi」のLiDARを使って環境地図を作成、店舗の通路やテーブル位置などのレイアウトを読み込んだあと、専用クラウド上にデータを保存し、PC上で禁止エリアの登録や停止位置の設定、Serviとの同期などを行う。店舗がレイアウトを変更した場合のコストはケース・バイ・ケースで、遠隔から対応可能な、簡単なテーブルポジションの変更や追加だけなら無償、ホームポジション変更や全体の再マッピングなど現地作業が必要な場合は有償とすることを検討しているとのことだ。

    本当に使われているサービスロボットの姿に感嘆

     ソフトバンクロボティクスからの発表同日、『焼肉きんぐ』『寿司・しゃぶしゃぶ ゆず庵』などテーブルオーダー式の食べ放題型店舗を運営する物語コーポレーションからは、「Servi」の実証実験への参加によって十分な効果があると判断し、2021年1月から310店舗にて計443台の稼働を順次開始する予定だとリリースが発表された。繰り返すが、443台である。驚きの数だった。オーダー式食べ放題ならではの高い労務負荷をロボットで軽減し、「人とロボットの適材適所」を探るという。 そして『焼肉きんぐ』板橋前野町店を先行導入店舗とすることも、そのリリースに記されていた。ロボットの実力を見るには現場が一番である。さっそく知人たちと一緒にまずは普通の客として店舗を訪問した。結論から先に言うと、ロボットはごく普通にオペレーションに溶け込み、大いに使われていた。「ガンガン使い倒されていた」と言ったほうが伝わるかもしれない。本当にサービスロボットが活用されている現場を、筆者は初めて見た。大いに感銘を受けた。 筆者らが訪問したのは金曜日の夜だ。忙しく人が立ち歩き、どんどん皿を運んでは下げ回る店舗のフロア内で、ロボットは完全に「戦力」となっていた。具体的オペレーションについては後述するが、人とほとんど変わらず、ロボットは違和感なく店舗に溶け込んでいた。もちろんこれまでにも、配膳ロボットがゆるゆると店舗内で動いているところは見たことがあった。だが、それらとはまったく違ったのである。 店に溶け込む──それはBear RoboticsのJohn Ha CEOがよくインタビューで答えていたことでもある。ロボット自体も素晴らしかった。障害物回避能力やおそらく位置ずれを起こしたと思われるときのリカバリーなどもスムーズであり、円形のフットプリントやテーブルに着席した客が取りやすい棚の高さなど、もろもろの特徴がシンプルながらよくできており、なるほどさすが元グーグルのレストラン経営者が開発したロボットだと感じさせられる点が多かった。 客のほうも特に違和感を感じている様子はなく、皆が普通に受け入れていた。ロボットは音楽を鳴らしながらやってきて、テーブル脇に止まる。皿を取ると、取られたことを重量センサーで検知。自動でホームへ戻っていく。テーブル上には簡単な説明が書かれた案内はあったが、そんなものは見なくても皆が普通に使っていた。 ロボットは引っ切りなしで動き続けていた。素晴らしい活用例だった。これ以来、私は、周囲のロボット関係者たちや知人たちには、『焼肉きんぐ』板橋前野町店に足を運ぶことを猛烈に進めている。読者の皆さまにもぜひ足を運んでもらいたい。他のロボット活用店と比べても、この店での使われ方が今のところ最もスムーズだと筆者は考えている。配膳ロボットの能力に疑問を持っている方なら、なおさらだ。ぜひ行って、自分の目で直接見るべきだ。デモンストレーションではなく、普通の客としてロボットが忙しい店内で働いているところを見てほしい。ロボットと人が一緒に働くとはこういうことだったのだと改めて実感できるはずだ。 なお、人気店なので予約は必須である。忙しい店でこそ、ロボットの真価が発揮されるのだと実感できるだろう。念のためお断りしておくが、これは広告記事ではない。なんだったら「だまされた」と思って取りあえず焼肉を食べるつもりで行ってみてほしい。本当に、見ればわかる。 どのお店でも配膳ロボットが効果的に使えると言うつもりはない。配膳ロボットが向いている店とそうでない店、向いている業態とそうでない業態はある。そのことも、ここ最近の配膳ロボット導入店舗急増で、にわかにはっきりしつつある。今まで机上で考えていたことが実地で動かすことではっきり見えてきているし、腹落ちするかたちで結果をかたち作りつつある。配膳ロボットのみならず、サービスロボットの事業化に興味がある人は、まずは現地に足を運んで、本当の現場で実際に使われているロボットを見るべきだ。やはり「現場」「現物」「現実」 は重要である。

    労務負荷軽減と飲食ならではの付加価値の両立、目的は「サービス強化」

     後日改めて、運営企業である物語コーポレーション広報・IR室 統括マネージャーの羽入隆之氏と、『焼肉きんぐ』板橋前野町店の永田翔馬店長にも取材としてお話を伺うことができた。板橋前野町店の規模は110坪、26テーブル。ロボット導入に至った理由は、ワンタッチで使えることと非接触ニーズ、そして従業員の負担軽減の3点だった。 そもそもロボットを検討した理由は「人は人、機械は機械の適材適所を探るため」だ。「焼肉きんぐ」はテーブルオーダー式食べ放題だ。追加注文による皿数は非常に多く、スタッフの労務負荷が高い。一方で、飲食の魅力は効率だけではない。たとえば「焼肉きんぐ」ではおいしい焼き方を教える「焼肉ポリス」なる人によるサービスがあり、それを大きなサービス付加価値としている。労務不可軽減と付加価値向上、両者を両立するにはとにかく人の負荷を下げる必要があった。そこで重たいものを運ぶ作業はロボットに負担してもらい、人間には人間にしかできない仕事に集中してもらおうというわけだ。あくまで「サービス強化」が目的であり、現状では、ロボットを入れたことで省人化したといったことはないという。 ソフトバンクロボティクスによる実証実験への参加は2019年11月から。寿司・しゃぶしゃぶ・串揚げ食べ放題の「ゆず庵」と、「焼肉きんぐ」で行った。実証実験店舗は板橋店ではなく、「焼肉きんぐ」仙川店と船橋店、「ゆず庵」三鷹店(現在は閉店)で行った。実証実験店舗ではなかった板橋前野町店が先行導入店となった理由は、順調に売上が立っている店舗であることと、2019年12月25日にオープンしたばかりの新店舗であり、レイアウトが標準的なものとしてきれいに作られていること。他の店舗では現在、2020年1月以降の本格導入準備のために前述のマッピング作業を全店舗で進めている段階だ。

    高校生から主婦パートまでが「これ便利じゃん」と受け入れ

     実際の運用についてはどうなのか。当然、永田店長は運用が始まるまでは「どうなのか」と思っていた面もあったという。ただ、実のところ不安よりもわくわくのほうが大きかったそうだ。そして実際に使ってみると「意外と速い」と感じたという。人だとトレイを片手に一つしか持てないが、ロボットは最大3トレイまで持っていくことができる。すぐに「作業効率は上がるなと思った」そうだ。また、「邪魔になるのではないか」という懸念もあったが、実際に動かし始めたらその懸念はすぐに消えてしまったという。 永田店長は実証実験に参加した店舗にいたわけでなかったので、ロボットの操作も改めてソフトバンクからレクチャーを受けた。立ち上げから実際の操作までほぼワンタッチでできるので簡単であり、実際に店舗でも、高校生から主婦まで幅広い年代のアルバイト店員たちがみんな「本当にすぐに使えるようになった」。従業員からもロボットに対しては実際に「便利じゃん」といった「プラスの意見しか出てこない」そうだ。 なお、同店は平日はディナー帯のみの営業だが、土日はランチ営業も行っており、その営業時間は11:30~24:00。ロボットは最大12時間半にわたって連続で動いているが、これまでに営業中に充電の必要が生じたことはないとのこと。なお充電に必要な時間は4時間なので、閉店後に充電ケーブルにつないでおけば済む。【次ページ】ロボットの実際のオペレーションのキーはデシャップポジション担当者

    お勧め記事

    ロボティクス・ドローン ジャンルのトピックス

    一覧へ

    ロボティクス・ドローン ジャンルのIT導入支援情報

    一覧へ

    PR

    SBクリエイティブ株式会社

    ビジネス+ITはソフトバンクグループのSBクリエイティブ株式会社によって運営されています。

    ビジネス+IT 会員登録で、会員限定コンテンツやメルマガを購読可能、スペシャルセミナーにもご招待!

    焼肉店で感嘆…初めて見た、「使い倒されている」サービスロボットの姿 森山和道の「ロボット」基礎講座|ビジネス+IT