東京電力福島第1原発の廃炉に向けて、高い放射線量のため人が立ち入れない建屋に「廃炉作業ロボット」を投入し、世界中を驚かせた。その技術を進化させつつ、日常生活でも利用できるロボットを生み出すため、千葉工業大学(習志野市)未来ロボット技術研究センター(fuRo)で、先端技術を搭載した生活支援ロボットなどを研究する古田貴之所長(51)に、これまでの成果や将来への展望を聞いた。
-原発廃炉作業で同センターのロボットが活躍し世界中から注目された。
「原子炉建屋内を世界で唯一動き回れるロボットを開発した。改良を重ね、『桜2号』で冷却装置が動くか点検し、人が入っていける放射線の低いルートを見つけ立体図を作った。地図を参考に解体計画を立てるなど多くのミッションに貢献した」
-ほかにも生活支援ロボットなど幅広く開発している。その原動力は。
「日本が直面する少子高齢化問題を何とか解決したい。ただ研究するのみではだめで、人手不足などさまざまな課題を解決できるロボットを世の中に普及させるために努力している」
-ロボット研究・開発を志したきっかけは。
「14歳の時に重い病気になり始まった車いす生活。車いすは平らな所しか進めない。もし車いすで段差やデコボコ道でも行けるようになれば、不自由なく皆が楽しく生活できると思った。バリアフリーにも限度はある。技術が高度になれば環境を変えなくても済むと思ったのが原点」
-ロボット技術にとって、令和はどのような時代になるか。
「今は家事を簡単にしようと家電製品の知能化を進めている。先駆けとして自動操縦ロボット掃除機をパナソニックと共同製作した。障害物を認識し体を持ち上げて乗り越えたり、指定した所を掃除したりできる」
「令和はロボット技術、人工知能(AI)、高速大容量の第5世代(5G)移動通信システムを駆使して少子高齢化問題、人手不足を解消し、明るい未来をいかに創れるかという時代になる。その中であらゆるものが自動化される」
-少子高齢化問題の解決へ何を開発するか。
「介護ロボットを開発する気はない。人は人に介護されて幸せだと思うから。少ない介助者で多くの高齢者に対応できるシステムが必要」
「誰が具合悪いかAI搭載ロボットが感知し、介助者に知らせサポートする。少ない労力で本当に介護が必要な人に力を割ける」
-生活はどう変わるか。
「電子レンジでボタン一つで自動調理でき、配送も自動に。苦労が苦労でなくなる。数年後の製品化を目指している『カングーロ』というAI搭載の乗り物は、指定した場所に連れて行ってくれる。『買い物難民問題』も解消されていく」
-今後の課題は。
「ハイテク化された製品は個人情報から使用履歴などあらゆる情報が把握できる。人口が減る中で社会を維持するには不可欠なものだが、個人情報をどこまで守るか。法整備の問題がある」
-研究者・開発者の育成の課題は。
「一番悩ましい。社会制度をきちんと理解して、課題を解決するための目的意識を持って、新技術を考える人を育てられるような教育が求められる」
-本県の可能性は。
「例えば千葉市はロボットモビリティーの特区を設けた。幕張新都心を中心に先進的な試みが進んでおり、新交通システム構築など千葉県にこそ新たな開発のチャンスがある」
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間もなく平成が終わり、令和が始まる。学術、スポーツ、文化、行政など県内の各分野で活躍するリーダーに、新たな時代の目標や未来像、その実現に向けた取り組みなどを語ってもらう。
◇プロフィール ふるた・たかゆき 1968年生まれ。2003年から現職。14年からは同大常任理事を兼務。福島第一原発で唯一全フロア踏破可能な災害対応ロボットを開発した。同大「スカイツリータウンキャンパス」を企画。趣味は料理。50回通う年もあったほど東京ディズニーランドを愛する。