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【PCゲーム極☆道】第109回『Model Builder』 適度な作業感で「上手にできた」を味わえるプラモデル作りシミュレーター

農業に掃除、お店の経営などなど。今日ゲーマーはさまざまな作業をゲーム内で楽しんでいます。作業ゲームはその楽しさから人気を博し、今や一大ゲームジャンルへと成長しています。

そんなつらいゲームが楽しいわけがない!と思う方もいるでしょう。ただ、世の中の趣味にもあえてつらい作業をするというものがたくさんありますからね。工作なんてまさしくそれです。ゲームが生まれる以前から、もくもく作業は娯楽として楽しまれていたのです。

さてそんな元祖もくもく作業アクティビティの工作ですが、これがもし最新のもくもく作業アクティビティであるゲームにやってくるとどうなるのでしょう?ということで皆さんのまだ知らないかもしれない「PCゲーム極☆道(きわめみち)」。今回はプラモデル制作をゲーム化した『Model Builder』を紹介します。

『Model Builder』はポーランドのクラフクに拠点を置くゲーム会社Moonlit S.A.が開発したゲームで、2022年2月9日に発売されました。この会社は非常に小規模な会社で、他社のゲーム開発に参加してきた子会社的なチームのようです。そんな会社が下請け業務と並行して開発を続けてきたのが本作で、延期に延期を重ねた末のやっとの発売となります。

ちなみに本作の原案は監査役会メンバーのKuba Wójcik氏が行っており、開発には同社の筆頭株主のゲームパブリッシャーPlayWayも協力しています。かなり手厚いサポートで生み出された作品と言えるでしょう。PlayWayは自社配給じゃないゲームにもドカドカ投資や協力を行っており、もはや変わり種シミュレーターのドン的立場の会社です。……ほんと何者なんでしょうねPlayWay。

『Model Builder』はその名の通り、プラモデル制作をゲームで再現したシミュレーター系ゲームです。プレイヤーはゲームに実装された数々のプラモデルを組み立てて遊ぶことができます。プラモデルは戦車に艦船、車にロケット、さらにはゲー〇〇ワーク〇ョップから出ていそうなミニチュアフィギュアやガン〇ラ風のロボットにいたるまでバリエーション豊かに用意されており、プラモデルと聞いて想像するものはおおかた作成できるようになっています。かなりこだわってきたなと感じられるラインナップです。

ちなみに、本作は日本語ローカライズにも対応しており日本のモデラーも遊びやすいゲームになっています。この辺も非常にありがたいです。

ただ正直なところ、モデラーからみれば非常に突っ込みどころの多いゲームです。まずランナーにくっついた状態のパーツのディテールがあまりにも細かいうえに、絶対に射出成型で抜けないような形状のパーツが数多く登場します。ガン〇ラ風のガンボットは3Dモデルらしい細かすぎるディテールをしており、プラモデルに詳しくない人であってもさすがに無理だと一瞬でわかるレベルです。超技術すぎる。こんなプラモ売ってたら感動でむせび泣くわ。

プラモデルの再現を求めてプレイすると、箱を開封して1秒でがっかりしてしまう、いや、嘲笑してしまうようなめちゃくちゃぶりです。

さらにランナーから切り離したパーツはなんと、バケツツールでワンクリックで塗装ができるようになっています。超びっくりの簡略化です。パーツ単位で1色に塗れるだけならばまだわかりますが、細かく作られたディテールの構成ごとに塗り分けがされるようにまでなっています。……あまりにも楽すぎる。パーツのディテールと相まって、「は? こんなのプラモデルじゃないだろ!」と世のモデラーが怒ってしまうレベルの簡略さです。

ただ、ちょっと待ってほしいんです! このゲームはプラモデルをバーチャルで完全再現したい……という方向では作られてはいないんですよ!!

このゲームは先に説明した通りシミュレーター系を多数配給するPlayWayの協力を得ており、その知見が活かされています。つまり、本作はシミュレーター系ゲームの文脈でプラモデルを描いている。

そう、どっちかというとこのゲームは掃除シミュレーターに近いんです!

汚れた車をピカピカにするゲームのように、パーツを指定通りに塗り進めていく。そういう作業感が本作のメインコンテンツなんですよ!

【PCゲーム極☆道】第109回『Model Builder』 適度な作業感で「上手にできた」を味わえるプラモデル作りシミュレーター

このゲームで非常に重要なのは説明書です。自由に制作できるサンドボックスモード以外では説明書通りに色を塗っていくことでプラモデルの進捗がゲーム内で進み、完成に近づいていくようにできています。そして、プレイヤーはこのゲームのプラモデルはすべて成形色で色分けされていません。ですので、プレイヤーは必ずパーツを塗り分けしなければいけません。

ランナーにくっついている状態ではたしかに「絶対こんなパーツ作れないよ!」と感じてしまいますが、このディテールが塗り分けをたとえバケツツールによる一括塗装であっても複雑にしています。

もちろん抜けそうなリアルなパーツを複数組み合わせる形もあり得ますが、バーチャル上でパーツの切り出し・接着を再現すると、どうあれなにかしらのミニゲームで判定することとなり、失敗したときに戻れない大きなストレス要素になってしまいます。プラモデルのこれら要素はどうあれ小さい失敗にすることは難しい。

作業ゲームの現在の潮流は、必要以上のつらさを与えず適度な作業で達成感を味わわせるのが主流です。本作ではパーツの切り出しと背着を超簡略化して、簡単な操作で切り取り(アップグレードで全自動になる)して接着も絶対にミスしません。間違えて接着しても外すことができるので安心です。そして、パーツ分けも必要以上に細かくする必要がないわけです。

ただ、組み立ても色塗りも簡単では適度な作業感は出ません。そこでポイントなのがドライブラシとウォッシングです。ドライブラシは希釈していない塗料をブラシで凸部にこすりつけプラモデルでは汚れや剝げ表現を行う際に用いられる手法、逆にウォッシングはしゃばしゃばに希釈した塗料を全体に塗って全体のトーンを調整しつつ凹部に塗料を落とす手法です。この2つがそれぞれ凸部と凹部に色を乗せるツールとして実装されています。

これがプラモデルを塗る作業を生み出しているわけです。説明書にはドライブラシとウォッシングの指示も記載されており、プレイヤーはこれに従ってパーツをひとつひとつシュッシュとこすっていく必要があります。このゲームは3Dモデル(パーツ)に直接ツールで色を塗ることができるシステムがあり、実際にプレイヤーがプラモパーツに色を重ねクオリティアップできます。

さらに、パーツによってはエアブラシ・筆で細かい部分を塗分けなければならないものもあり、全てがすべて一括で塗れるわけではありません。バケツツールの一括下塗り。エアブラシ・筆で細かい塗り分け。そしてドライブラシとウォッシングによる表現の追加。この3工程で塗装を適度な作業に仕上げています。

そしてこの作業をこなしていくと、パーツがいい感じになっていく!

特にドライブラシ・ウォッシングがとても優秀で、バーチャルだからこそ欲しいところに的確に色が塗れるのでバチクソかっこよくなります。おかげでこの塗装作業で目に見えてパーツの見た目が良くなってくれる。説明書通りにマウスでなぞるだけでかっこよくなる。比較的たやすく「上手にできたな!」という達成感を得ることができるんです。

塗ってすぐその結果がすぐに現れるおかげでプレイヤーのモチベーションがググっと上がってきます。ドライブラシ・ウォッシングはプラモデル初心者にも勧められることのあるテクニックですからね。その仕上がりの差は一目瞭然でしょう。

ただ直接塗れるゲームだからこそ、変に塗ってしまうこともありえます。塗り間違い、はみ出し、ドライブラシとウォッシングのやりすぎなどなど、こうした失敗は実際のプラモデル同様何度も起こり得ます。ただ、さすがはバーチャルですから塗り直しは一瞬。いくら塗り重ねても塗膜の厚さは関係ありません。もちろんヒケることもありませんし、塗装ムラもありえません。失敗をすぐに取り戻せるのもいいところです。この楽さがストレスの少ない適度な作業感を作っています。

また、この適度な作業感を損なわないため説明書がとても便利になっているのも特徴です。説明書に書かれたパーツのイラストをクリックすればそのパーツがハイライトされ、ダブルクリックすれば取り出すこともできます。説明書の指定色も説明書をクリックすれば一発で選択することができます。進捗状況も説明書上部のゲージに表示され、ゲージを見るだけで作業の進捗がわかります。ここもプレイヤーには色塗りに集中してほしいという作りです。

もちろん、この直接塗れるシステムはプレイヤーのやる気があればいくらでも凝った塗装ができるということです。色塗りツールに加えてデカールとマスキング(ステンシル用)、パターン塗装ツール、塗装スポンジ、さらには発光塗料・発光させる光線銃(?)などさまざま用意されています。説明書に指示のないところまで塗装を凝ってもいいし、サンドボックスモードなら自分のオリジナル塗装を楽しむこともできます。

プラモデルのクオリティアップ塗装をメインに据え、デジタル立体塗り絵として作りこみ、作業ゲームとしてプラモデルを昇華させたのが本作なのです。作業ゲームが好きな人にはとてもオススメできますし、作業ゲームに触れてみたい方にとってもパーツごとに進捗が掴めるので遊びやすい印象です。プラモデルをきっちりと再現しているわけではないため、このゲームでプラモデルがうまくなるか……と言われると微妙ですが。

キャリアモードでは亡くなった祖父から模型部屋を譲り受け、祖父のモデラー人生を追いながら職業モデラーとして活躍していくストーリーがしっかり用意されており遊びごたえも感じます。キャリアモードは説明書通りの制作を求められるので自由度は低いものの、チュートリアルがしっかりしています。キャリアモードでゲームに慣れて、サンドボックスモードでオリジナル作品に挑戦するのもいいでしょう。

プラモデルだからこそ、途中で切り上げられるのも作業ゲームとして魅力的です。ここちよい作業感で、上級モデラーになった気分を味わってみてください。