26 11
Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2021年9月30日 No.3515 コロナ禍でも活発なインド経済 -最近の動向と産業政策

経団連は8月27日、オンライン会合を開催し、ジェトロ(日本貿易振興機構)のインド5拠点の事務所長から、経済や産業の情勢について説明を聴いた。概要は次のとおり。

■ インドをどうみるか(村橋靖之ニューデリー事務所長)

インドは、2020年に新型コロナウイルス感染拡大の第一波、21年4~5月には強烈な第二波を経験したが、第二波では州単位での活動制限を中心として全土のロックダウンを行わず、経済活動は継続された。この間もEV、再生可能エネルギー、eコマースなど対内直接投資は活発に行われている。

モディ政権が歴代政権が成し得なかった改革を推進するなかで、政策の方向性はより明確になってきた。すなわち、「Make in India」政策に基づき製造業の品質を向上させ輸出拡大を図り、「自立したインド」を目指すことである。

インドの将来性、魅力は誰もが認める一方、ビジネス環境の厳しさも存在する。インドは日本にとって政治的・経済的に不可欠なパートナーであり、社会課題の解決などビジネスチャンスの宝庫である。人材、イノベーションなどインドをどう取り込んでいくか、日本企業は東南アジアの延長線としてではなく、インドならではの取り組みを行う必要があるといえる。

■ デジタル大国インドの人材・イノベーションをどう取り込むか(鈴木隆史ベンガルール事務所長)

20年、インドでは巣ごもりやテレワークのニーズをとらえた12社がユニコーン(評価額が10億ドル以上の非上場ベンチャー企業)に成長した。21年に入ってもユニコーンが続々と誕生し、株式上場も相次いでいる。外国投資家の出資が増加しており、日本企業の存在感の低下が指摘されている。

インドでは全土にわたりスタートアップが生まれている。ハイデラバードは中国の深圳と似ており、ハードウエアを得意分野としている。他方、ムンバイではシンガポールと同様、金融サービス分野でのスタートアップが生まれている。グローバル企業は、スタートアップを囲い込む、あるいはR&D拠点として整備するなどの動きをみせている。

 Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2021年9月30日 No.3515 コロナ禍でも活発なインド経済 -最近の動向と産業政策

日本企業にとって、ITに長けているだけでなく、経営センスに優れたインドの人材を積極的に取り込んでいくことが重要である。

■ インド市場への多様な参入機会(松永宗徳ムンバイ事務所長)

進出日系企業全体の75%がインドの北部と南部に集中している。それに対して、欧米企業はムンバイのあるマハーラーシュトラ州など西部に集中している。

モディ政権は、「自立したインド」政策の実現に向けた投資促進策として、20年4月に生産連動型優遇策(PLI)スキームを発表した。これは、先端化学・セル電池、電子・技術製品、自動車・自動車部品、医薬品など13分野で、補助金の付与といったインセンティブを設け、インド国内での生産を促進するものである。

現時点で日本企業への補助金付与の承認は医療機器分野の1社にとどまっている。モディ首相は、セル電池、自動車部品の分野への日本企業の積極的な投資を呼びかけている。

インドでは、コロナ禍で停滞していた物流インフラの整備が再開・本格化している。貨物専用鉄道の西回廊(デリー-ムンバイ間)の計画について、第一工区が完成し、世界初のダブルデッカーコンテナ車両による貨物の積載・運搬が始まる。インドへの積極的な投資を検討してほしい。

■ タミルナド州情勢と新たな主要産業の勃興(中山幸英チェンナイ事務所長)

チェンナイを有するタミルナド州では、新型コロナの新規感染者数が大きく減少し、工場の生産や生活にかかる制限の多くは撤廃済みである。タミルナド州には、二輪車、四輪車のセットメーカーが多く立地している。マレーシアやインドネシアの感染拡大がもたらした半導体や部品の輸出停滞により、チェンナイにおけるセットメーカーも減産の影響が生じている。

21年2月、タミルナド州は7年ぶりに州独自の投資政策を改定した。特に携帯電話、電気自動車関連を重点分野として掲げたこともあって、今年は同分野への投資が相次いでいる。特にFoxconnグループのiPhone生産にかかる投資、OLAの電動二輪生産にかかる投資が大きく、今後の動向が注目される。

また、中央政府に比べて州政府の投資インセンティブスキームのほうが使いやすい部分があることも注視すべき点である。5月に州議会選挙によってタミルナド州の政府与党が交代したが、外資誘致にポジティブな姿勢を引き続き堅持している。

■ インドEV市場の動向(古川毅彦アーメダバード事務所長)

18年、インド政府は30年までに全自動車販売の30%をEVとする目標を掲げた。EVには、環境負荷削減とともに「Make in India」政策の牽引役としての役割が期待されている。ただし、現時点では新型コロナの影響等を背景に、自動車市場全体が縮小しており、EV販売台数の伸びは緩慢である。

インドのEV普及の主な課題は、従来車との価格差や車種の選択肢の少なさ、充電インフラの未整備である。インド中央政府はEV奨励策を推進し、公共交通機関や商用車への導入を優先的に進めている。また、廃車証明書による新車購入時の割引や、登録税免除のインセンティブ等の「車両廃棄政策」を導入した。各州も独自に、EV購入者、部品製造業者、充電インフラ整備へのインセンティブを付与している。

先端化学・セル電池分野は、インド政府が進める生産連動型優遇策の対象である。EVは社会システムの転換にもつながる裾野が広い産業分野であり、中長期的には大きなビジネスチャンスの芽が存在していることから、日本企業も優遇策の積極活用等を通じて同分野に展開してほしい。

【国際協力本部】