11月19日開催「IoT H/W BIZ DAY 2021 by ASCII STARTUP」は、IoTやハードウェア製品をはじめ、AIやクラウド、ネットワーク関連などのモノと通信に関わる全ての事業者に向けたビジネスカンファレンスイベント。展開されたセッションから、世界を代表するエレクトロニクス製造サプライチェーンの国際展示会「SEMICON Japan 2021」とのコラボセッションの模様をお届けする。次世代コンピュータの本命と目され、国内外で投資が急速に増大してきている量子コンピュータの現状について、国内における量子コンピュータスタートアップのトップランナーであるblueqat株式会社の代表取締役社長 湊 雄一郎氏(以下、湊氏)による講演内容を紹介する。
blueqat(ブルーキャット) 代表取締役社長 湊 雄一郎氏が登壇
量子コンピュータへの投資が急速に拡大している。2010年代前半は数百万~数千万ドル程度だった同領域への投資が、2020年には6億ドルを超え、2021年には8億ドルに上るとの試算も出てきている。日本でも2020年に内閣府が「量子技術イノベーション戦略」を公開し、当該分野への投資を促進している。しかしながら毎年数億~数十億ドル規模での投資が進む欧米・中国での動きに比べると見劣りがすると言わざるを得ない状況だ。
国による開発支援だけでなく、企業による開発においても日本は諸外国に比べて後塵を拝している。例えば北米(米国・カナダ)には世界の量子コンピュータ企業・組織の約半数が集まっている。欧州では最近、英国の企業がこの領域での勢力を伸ばしてきており、フランス、スペイン、ドイツの企業も頻繁に話題に上るようになってきた。さらに北欧では量子コンピュータのハードウェア開発が進んできている。
Stefano Mangini氏作成
https://twitter.com/stfn_mangini/status/1416426431035449345
アジア・太平洋圏ではシンガポール、オーストラリアがハードウェア開発で名をはせるようになってきている一方で、日本はその経済力・技術力に比べると存在感がない。
「最近非常に力を伸ばしているのが中国。ここは企業ではなく国単位で作っているが、すでに米国の最新型量子コンピュータの性能をはるかに凌駕する物を作り始めている。このように量子コンピュータはスマートフォンや最近の電気自動車と同じで、世界規模でビジネスに取り掛かるのが非常に重要な分野といえる」(湊氏)
2020年に、中国科学技術大学の量子コンピュータ研究グループは、「ガウシアンボソンサンプリング」と呼ばれる、日本のスパコン富岳でも6億年かかる計算を200秒で成功したと報じている。これはGoogleに次いで世界で2番目の量子超越の実現だった。GoogleはスパコンSummitで1万年かかる計算を200秒で達成したというものだったが、中国では2021年にはこれらよりもさらに高速化した量子コンピュータが開発されている。
そもそも量子コンピュータが注目を集める理由の1つに、そのマーケットサイズがある。当初、2015年ごろに量子コンピュータ開発が世間を賑わせたが、これはNISQと呼ばれるエラーの多い量子コンピュータで、既存のコンピュータとハイブリッド化することにより、エラーをごまかしながら計算するタイムのものだった。この時点での市場規模は2500億円から5500億円と言われていた。
2020年ごろからいよいよ量子コンピュータの性能がスパコンを凌駕する量子超越性が実現されるようになってきた。そのため、現在の市場規模は2兆7000億円から5兆5000億円程度と見込まれている。
2040年ごろには、エラー訂正も実装された汎用量子コンピュータが実現すると言われている。市場規模は大幅に増加し、50兆円から93兆円に達するとの試算が出ている。当初、このレベルの量子コンピュータが実現するのは2050年から2060年ごろとされていたが、技術の進歩によりその時期が前倒しされてきている。
2020年度では60億円程度だった国内量子コンピュータ市場も、2030年度には3000億円近くに上るとみられており、この急速に拡大する市場を満たすためにも、国内での量子コンピュータ産業育成は喫緊の課題となっている。
国内量子コンピュータ市場規模推移と予測 出典:https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2803