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現代自動車が日本に再参入!「韓流クルマ」はヒットするのか?

現代自動車が2022年5月に日本で発売する「IONIQ5」(左)と「NEXO」

現代自動車が日本に再参入!「韓流クルマ」はヒットするのか?

韓国の現代自動車が日本の乗用車市場に再び参入する。2022年5月には電気自動車(EV)の「IONIQ5」(アイオニックファイブ)と燃料電池車(FCV)の「NEXO」(ネッソ)を発売する予定だ。日本からの撤退から13年を経てカムバックを決めた現代だが、成功の見通しは?【写真】快適な居住空間「Living Space」がテーマの車内電動車に特化したラインアップ現代は2000年に日本法人を設立、主要都市にディーラーネットワークを構築し、乗用車ビジネスに参入した。当時は日本で大ヒットした韓流ドラマ『冬のソナタ』に主演したペ・ヨンジュンをCMキャラクターに起用したり、2002年のFIFA日韓ワールドカップで公式スポンサーを務めたりするなどマーケティングにも力を入れたが、思うように販売台数を伸ばせず、2009年に撤退した。撤退から13年。乗用車を取り巻く環境は大きく変わった。「CASE」(コネクテッド、自動化、シェアリング、電動化)という言葉で表現される技術革新の最中である今こそチャンスと見て、日本市場への再挑戦を決めた。社名は当時の「ヒュンダイモータージャパン」から「ヒョンデモビリティジャパン」に変更。販売するのは、いずれも走行中にCO2を一切排出しないZEV(ゼロ・エミッション・ヴィークル)のIONIQ5とNEXOだ。IONIQ5は5ドアハッチバックのEVで、バッテリー容量は58kWhと72.6kWhの2種類。日本のEVでは日産自動車「アリア」やトヨタ自動車「bZ4X」にサイズが近い。航続距離は498~618km(WLTCモード)。どちらの容量でも後輪駆動と四輪駆動を選べる。価格は479万円~589万円だ。NEXOはIONIQ5と似たサイズ感のFCV。トヨタ「MIRAI」やホンダ「クラリティFCV」同様、大気中の酸素を取り込み、車載タンクの水素と化学反応させて発電しながら走行するEVの一種だ。ヒョンデによれば、一回5分の水素充填で約820km(同)の走行が可能。価格は776.83万円で、MIRAIの710万~860万円を意識した値付けとなっている。両車ともにウインカーレバーを国産車と同じ右側に配置するほか、近頃国内でオプション装着される率が高いドライブレコーダーをあらかじめビルトインするなど、日本仕様にローカライズしてある。ネット販売に特化で参入コストを削減?2車種ともに今年5月に発売、7月にデリバリー開始の予定。販売はウェブサイトやアプリ上で仕様を決めて購入するオンライン型に特化する。今後、全国に指定修理工場やロードサービスの体制も整備する。7月に横浜に開設されるカスタマーエクスペリエンスセンターで試乗できるほか、カーシェアリング事業者のAnyca(エニカ)のサービスを利用して試乗することもできる。Anycaは両モデルをオフィシャルシェアカーとし、年内にIONIQ5を100台、NEXOを20台登録する予定だ。また購入者が知り合いにヒョンデ車を勧め、その人が購入に至ると紹介者にも特典があるリファラルプログラムも展開する。IONIQ5、NEXOともに時流に乗った電動車であり、デザインやスペックを見る限り、高い競争力をもっていると思われる。ヒョンデ日本再参入の最大のポイントはオンラインに特化した販売システムではないだろうか。このシステムを導入すれば、自動車ビジネスにおいて最もコストのかかる販売ディーラー網の構築が不要になる。この手法を選べるということ自体が、日本再参入を決断する大きな理由のひとつになったはずだ。ディーラー網を構築しなければ、万一うまくいかなかった場合に撤退の判断もしやすい。オンラインに特化することで、購入検討者をデジタルデバイスに親しみのある世代に限定してしまう可能性があるが、日用品のオンラインショッピングはすでに幅広い世代が活用するようになった。それと、これはあくまで一般論だが、日韓の歴史的経緯からくる複雑な感情により、韓国製品を買わないと決めている人は、年齢層が高くなるほど多くなるものと思われる。若者(この場合の「若者」には49歳の自分自身も含む)は、例えばサムスンのギャラクシーでBTSをこぞって聴き、『梨泰院クラス』や『愛の不時着』を楽しく視聴しているわけで、韓国ブランドのプロダクトにもオンラインショッピングにも抵抗がない。点検や修理などの利便性が確保されれば、「韓流クルマ」だってヒットするかもしれないのだ。ただし、電動化をはじめとする昨今の自動車の技術革新は、自動車の性能上の差異をどんどん狭めている。乱暴にいえば、ヒョンデ車に限らず自動車はどんどん均一化してきており、自動車メーカーには認知度やヒストリーといった無形の力がますます求められるようになっている。そうなると、13年間のブランクが招いた日本での認知度の低さ、ヒストリーのなさをカバーし、クルマをヒットさせるのは至難の業であることが予想される。前回の参入時に登場したモデルも当時の日本車のレベルに達していたが、突出した部分がなかったために埋没した。その二の舞を防ぐには、日本車“並み”の性能では不十分であり、ヒョンデならではの突出した魅力を備えているかどうかが重要になるだろう。 塩見智しおみさとし1972年岡山県生まれ。1995年に山陽新聞社入社後、2000年には『ベストカー』編集部へ。2004年に二玄社『NAVI』編集部員となり、2009年には同誌編集長に就任。2011年からはフリーの編集者/ライターとしてWebや自動車専門誌などに執筆している。

塩見智